MBAの教科書みたいな「Subject To Change」
Subject To Change -予測不可能な世界で最高の製品とサービスを作る
あらためて、書評(のようなもの)を。
認知科学者のD.ノーマンは本書を気に入って推薦文を書き、「…私はMBAコースの教科書に使うつもりだ。」と述べているそうだ。(訳者あとがき より)
読み進めていくと、たしかにデザイナー向けというよりは、経営を学んでいる人、マネジメント側から「デザイン」や「イノベーション」を見ている人に向けて書かれた内容になっている。(ここでいうデザインはもちろん単なる装飾のことではなく、成功する製品やシステムを創造的に作り上げていく思考とプロセスの全体を指している。)
2章の「戦略としての体験」では、企業の製品戦略、マーケティング戦略に対して、新しいコンセプト(体験)を提示している。また、6章の「デザインコンピテンシー」は、イノベーションを起こすためには「組織のデザインコンピテンシー」が重要であり、それが戦略的優位をもたらすと説いている。まさにMBAの教科書。。。(^^;
(追記)コンピテンシー:(社員の)行動、思考特性
…全体に、理論的、抽象的な議論が多いのでデザイナーにはちょっと読みにくい本です。逆に、製品デザインの現場の話が少ないので、経営にフォーカスしている人には(IDEOの本などよりも)読みやすいと思います。
TGSの紺野先生の授業を履修したみなさんで「(広義の)デザイン」に興味を持った方には、おすすめの一冊です。(^^)
デザイナーには読みにくい、と書いたものの、本書のような文脈で「デザイン」が語られ、マネジメントの側から理解されるようになると、デザイナーのあり方も変わらざるを得ない気がします。
日本では多くのデザイナーが企業に属しています(インハウス・デザイナーと言います)。いずれ、アメリカでIDEOやadaptiv pathが果たしているような役割が、企業内のデザイナーやデザイン部門に求められるようになるのでしょう。(すでにそのような仕事をしている方もいらっしゃいます)
企業のデザイン部門に人材を送り出しているのは、現状では大学(美術系や工学系、情報系など)にある「デザインの学科」です。今のままの枠組みで、経営的な要素を取り入れるのはなかなかむずかしいなぁ、と感じています。
次の世代に向けて、‘新しいデザインの定義’に基づいた‘新しいデザイン教育’が必要なんじゃないか、そのための教育のしくみはどのようにすればいいのだろうと、ここ1年くらいずっと考えています。
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コメント
「Subject To Change」先ほど読み終えました。
デザインはデザイナだけのものではなく、製品やサービス開発に関わるあらゆる立場の人がデザインに様々なカタチで関与することによって、良い結果をもたらすということが、具体的な事例を持って紹介されています。
また、デザインやユーザビリティ評価への過度の期待も戒めているところがバランス感覚として素晴らしいと思います。
社内強制回覧して読ませます(笑)
投稿: tazuke | 2008.11.06 00:44
コメントありがとうございます。
(組織として持つべき)「デザインコンピテンシー」っていう言い方がスゴいなと思いました。
投稿: よしはし | 2008.11.06 18:49
『Subject to Change』の訳者の高橋信夫です。ご紹介いただきありがとうございます。
ちょっととっつきにくいところがありますが、良い本だと思っております。
よろしくお願いいたします。
投稿: のぶ | 2008.12.01 16:13
のぶ さん
コメントありがとうございます。まさか訳者の方から直々にコメントをいただくとは。。。(^^;恐縮です。
(デザイン教育でも)大学院なら教科書として使えるのではないかと思っています。
投稿: よしはし | 2008.12.01 23:17